『女性の一生と漢方』 石野信安著、緑書房、1984年
著者の石野信安(1907~1987)先生は、漢方薬・鍼灸を用いて診療をする産婦人科医です。
私の母校でもある東洋鍼灸専門学校で、校長を勤められたこともありました。
婦人科・産科を専門分野としている鍼灸師にとって、本書はまさにバイブルです。
私自身が鍼灸師になって、修行先の鍼灸院の院長から最初に手渡されたのがこの書籍でした。
40年近くも前に出版されていますが、内容にいささかの古さも感じません。
いつの時代でも変わらない、共通の大事なことだと認識させられます。
妊娠・出産・産後・子育てを中心に、漢方薬・鍼灸を用いた身体づくりについて、詳しく紹介されています。
安産のお灸、つわりのお灸、逆子のお灸などは、そのまま当院でも行っています。
『女性の一生には一つのリズムがあります。その年令の節々をうまく過すことがとても大切なことなのです。』
(『女性の一生と漢方』 女性の一生と漢方の恩恵)
妊娠・出産のためには思春期・婚前の身体づくりが、更年期のためには分娩・産褥期の養生が、それぞれ大事になってくると言及されています。
初潮の頃の不調、不妊症、更年期障害の症例も紹介されており、まさに女性の一生を網羅する内容です。
『妊娠する、ということは、とても大変なことなのです。受胎という、ただそれだけのことではすまないからです。ほぼ一年後には、お産をしなくてはいけません。そして、更に赤ちゃんを育てるという大役が待っています。…(中略)単に、女性の卵子と男性の精子とが会うだけでは受胎しないのです。また受胎したとしても、約10ヵ月の妊娠の期間をもちこたえることはできません。…(中略)全身的に良い状態になって、二人分の力がたくわえられるのです。すなわち、女性のからだ全体で妊娠する、ということが非常に大切なのです。』
(『女性の一生と漢方』 第3章 健康な女性であるために)
不妊症では、身体全体のバランスを整えることが必須であると言及されています。
石野先生自身も様々な漢方薬や鍼灸を用いていらっしゃいました。
しかしながら、「病気を治すのは医者ではない」とも言及されています。
『人間の身体には、本来そのような、自分で自分のからだの異常を治す本能があるのです。…(中略)病気を治すのはその人のからだ自身であるのです。そして、その能力をうまく引き出そうとするのが、東洋医学の治療の考え方なのです。』
(『女性の一生と漢方』 第5章 健やかな毎日を過ごすために)
東洋医学的な施術をしている鍼灸師にとって、これこそが義務であり、使命であると言えるでしょう。
鍼灸たかみの施術方針や方法論は、本書に依るところが非常に大きいです。
婦人科疾患にお悩みの方、東洋医学での治療を考えられている方に、お勧めしたい一冊です。